2008/10/09

リュリ「アルミード」プロローグ@シャンゼリゼ劇場


フランスのオペラは、ルイ14世の時代のリュリによって確立されたが、その代表作「アルミード」の公演があった。ここで注意したいのは、この作品は「叙情悲劇tragédie lyrique」あるいは「音楽悲劇」と呼ばれ、5幕で構成されるが、ルイ14世を讃えるプロローグを備えている。また、イタリアオペラのような朗々たるアリアの歌唱が中心ではなく、文字通り音楽つきの悲劇がめざされた。オペラは通常アリアとレチタティーヴォ(=語り)によって構成されるが、フランスの音楽悲劇に力点が置かれていたのは、語りつまりはレシタティフの方であり、語るように歌うのであり、それ以外のエール(アリア)やディヴェルティスマン(気晴らし)は、幕の終わりにダンスを伴って演奏されることになる。なので、イタリアオペラやモーツァルトなどを聞き慣れている人には、フランスの叙情悲劇は平板で、退屈なものとして感じるかもしれない。すると、演出家はその退屈さを乗り越え、現代的な解釈を付与したくなるのだろう。今回のロバート・カーセンによる演出も、そのような視点が強かった。
これより先 ネタバレ注意です
当初、プロローグをどのように演出するのか気になっていた。筋とは別の王様を讃えるだけのところなので、もしかしたら強引にカットしちゃうのではないかさえ思った。さて、劇場に入ると、舞台には17世紀のヴェルサイユ宮殿を描いた絵が映し出され、その上にはガイドツアー19時30分と言う文字がある。、指揮者のクリスティーが入場し、挨拶すると劇場の照明は落とさずに、その絵の前に金色のポールと赤いロープがあり、係員がおもむろにそれを片づけることになる。そして、グレーのワンピース姿の女ガイドさんが2人(栄光の女神と英知の女神)が舞台袖から出てきて、指示棒を延ばし、美術史の講義をするように、舞台に映し出され始めた、ルイ14世の栄光について讃えることになる。この講義を聞くのは、観光客になるのだが、いきなりレザールフロリサンの合唱組が、いかにもヴェルサイユの観光客といった格好で客席(パルテールとバルコン)通路に登場する。客席からの合唱=観光客とガイド=女神の応答のあと、舞台にはルイ14世の関連図像の静止画から、ヴェルサイユ宮殿の動画に変わり、客席にいたはずの観光客がその動画の中に入り込み、舞曲に合わせて鏡の間で観光客たちが踊ることになる。鏡の間のあと、観光客はベルニーニによるルイ14世の彫像も置かれている「王の寝室」に入ることになる。すると、観光客の一人(男性)が、その部屋にうっとりして、バラスターを乗り越えベッドの上で顔をつけて法悦状態となる。彼以外の観光客=合唱は、宮殿から庭園に出て、ラビリントや王自身もダンスを踊った木立の泉でのダンスシーンのあと、再度ベルニーニによる彫像がアップとなり、王の寝室で昼寝をし続ける男が映し出されると、観光客=合掌は退場して、プロローグは終わる。

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